牧師便り

心の平和は愛によって生まれる  :  久保 司 牧師
 

このように、わたしたちは信仰によって義とされたのだから、わたしたちの主イエス・キリストによって神との間に平和を得ており、

新約聖書・ローマの信徒への手紙5章1節(新共同訳)

山崎豊子著「『沈まぬ太陽』会長室編」で、主人公が子会社の不正追及のためのニューヨーク出張の最後に「ブロンクス動物園」を訪れます。そして、類人猿舎の中にある有名な「鏡の間」というところで、”THE MOST DANGEROUS ANIMAL IN THE WORLD”という文字とともに、鏡に映った自分の姿に接し、権謀術数に満ちた人間世界が浮かんでくるという場面があります。

ここは、野生生物保護協会(WCS)が運営する265エーカー(約1,070?)の広大な動物園で、約4000匹の動物たちを観ることができます。類人猿舎「鏡の間」の「THE MOST DANGEROUS ANIMAL IN THE WORLD」(世界で最も危険な動物)という看板を掲げた檻があり、その檻の中には一枚の大きな鏡が置いてあって、その鏡には覗いた人の姿が映ります。鏡の下には「この動物は、24時間ごとに19万頭の割合で増えている。しかも他の動物を絶滅させたことのある唯一の動物。今では地上の動物の全てを絶滅させてしまう力を手に入れた」1963年に当時の園長のW.コンウィン博士によって設置され、この警告文も博士の言葉とのこと。つまり人間が世界で最も怖い存在であるということなんです。

確かに、最近の世の中は、人間にこんな恐ろしいことが出来るのだろうかと思うようなことが次々と起こっていますし、歴史を振り返ると、国の内外を問わず、戦争の歴史は人によってその悲劇が繰り返され、平和を求めてもなかなか実現できない状態です。

さて、平和を妨げる最大の原因は、人間一人一人の心の中にあり、「自我」「孤独」「死への恐怖」少なくともこの三つの問題が克服されなければ心の平和、平安を得ることは困難だと言われています。

「自我」を克服するには、見返りを求める事を無くさなければなりませんが、それには無我の愛、寛容の愛、赦しの愛を価値ある事と認める必要があります。唯一それらの愛を実証したイエス・キリストの十字架の意味を知り、キリストを心から受け入れる事によって、神の愛が心に注がれ、より高い価値観となります。

「孤独」を克服するためには、私たちが愛されている事を実感する事です。これもまた十字架を通して示されます。神様に対する信仰によって、心に満タン神の愛が溢れる時、自分を愛するように隣人を愛する事ができ、お互いの関わりの中で幸いを得る事ができます。

「死への恐怖」について、私たちは復活と永遠の命、神様の統治による完全なる平和な世界が約束されています。これもまた、十字架による贖いによって実現します。キリストの命によって贖われたことにより、死はもはや絶望ではなく一時的な眠りとされたのです。

平和の源である神様の下に集い、愛と恵みに満たされ、与えられた恵みを隣人に届けることのできる者として歩んでゆけたら幸いです。