牧師便り

希望は失望に終わらない2  :  久保 司 牧師
 

わたしの恵みはあなたに十分である。
力は弱さの中でこそ十分に発揮されるのだ。

新約聖書・コリントの信徒への手紙二 12章9節(新共同訳)

22歳の春のことでした。当時、鹿児島市に「福音盲人センター」がありました(現在は横浜市上川井町)。スタッフはボランティア2名を含む5名で全国に向けて点字訳の教会の刊行物、聖書のテキスト、通信講座と録音テープを制作、発送しながら、薩摩半島先端にある指宿市での開拓伝道をしていました。

所長の山口睦夫さんは、壮絶な人生を歩まれましたが、情熱と使命を持って視覚障がい者の自立支援と伝道に一生を献げた人でした。終戦後、工場経営、結婚、出産と順調な人生を歩んでいました。しかし、目を患い失明してしまいました。絶望感の中、全ての財産を妻の名義にし、妻子と別れ、病院のベッドの上で自らの命を絶つことにしたのです。しかしそれは未遂に終わり、意識を戻したときに深い失望に襲われてしまいました。

そんな時、当時SDA鹿児島教会の荒木アイ先生(婦人牧師)が彼を訪問したのです。彼女もまた視覚障がい者でした。山口さんは、この人はなぜこんなに明るく生き生きとしているのだろうと不思議に思い、それが彼女の信仰によるものだと気づきます。そこで荒木先生との聖書の学びが始まりました。

山口さん自身も聖書を学びながら、神は全てを奪われたのではなく、神と出会い、人々に幸いを届ける事ができるように自分に失明という試練を与えられたのだと悟ったのです。その後、必死に点字を覚え、聖書の言葉を同じ試練にある人々に届ける働きを始めました。そんな彼を神は更に試みられます。

ある時、右足に激しい痛みを感じ病院に行きました。病名は骨肉腫!医師からは仕事を辞めて治療に専念することを進められましたが、彼は絶対に仕事を辞めることはできないと拒みます。そこで医師は仕事を辞めるか、今すぐ足を切断するかと迫りました。山口さんは一切の迷い無く即座に「足を切ってくれ」と答えました。膝下15cmを残して右足切断、治療中もベッドの上で仕事を続けました。その後再婚(奥様は脊髄カリエス)、二人のお子さんをもうけ、生涯を視覚障がい者伝道のために献げました。

指宿市で視覚障がい者の集いがありました。私は、ある姉妹(お二人)に自立するために治療師の資格を取ることを勧めましたが、面倒くさがりの二人は全く聞く耳を持ちません。それでも勧めていますと、「あなたは目が見えるからいいでしょうが、私たちは見えないんだ!私たちの気持ちをあなたは解るはずない!」と言われてしまいました。そんな時、近くで別の人と話をしていた山口さんが来て、「この人はね、あんた達のことを理解したいと思ってるんだ。力になりたいと思ってる。」と一喝。そして彼は優しく彼女たちと話し始めました。素直に耳を傾ける彼女たち・・・

その時学んだのは「他の人の気持ちは100%理解することはできない。しかし、解りたいと願うこと、気持ちを察すること、理解できるよう多くのことを聞くことが必要である」ということ、そして希望を与えられた障がい者はやっぱリスーパーマンだと感じました。

(次回に続く)